■第2章■ガンオイルに必要なもの。
ガンオイルに要求される科学的性能とはなにか?そもそもなぜオイルを使ってメンテナンスするのか?この辺りの事を理解すると、後述する実際の手入れ方法の理解を助ける事になります。
まず、なぜ銃をメンテナンスするのか?という疑問について考えることにしましょう。
銃のメンテナンスの目的は、
●1●機械としての適正な可動性能の維持保全
●2●摺動部分の磨耗防止
●3●銃を構成する材質品質の劣化防止、と外観の保全
の3点に集約されます。
このうち●1●は簡単に言えば、引き金やシアー、ハンマーなどの部品が設計通りの重さ、ストロークでスムーズに動作するように維持するということで、●2●は摺り合わせ部分、シアーとハンマー間などの磨耗を防ぐということ、●3●はスプリングやピン類を含む腐食可能な部分にたいする錆の防止をさします、とくにスプリングの折損は銃故障の原因の上位にランクされています。
そこでこれらの要求を満たすために、オイルに要求される性能は以下の通りです。
▲1▲潤滑性能
▲2▲浸透性能
▲3▲清浄性能
▲4▲水分除去性能
▲5▲保護皮膜形成性能
▲6▲品質劣化防止性能
の6点となります。▲1▲は文字通り摩擦を減らしてすべりを良くする性能です。これはどんなオイルでももっている基本機能で、これが大事なような気がしますが、じつは散弾銃にとってはそれ程重要な機能では無く、要求順位はあまり高くありません。なぜなら車のエンジンなら1分間に3000回転ぐらい回り、温度も部分的には数百度にもなりますが、銃では機関銃でもないかぎり、普通の射手なら3000回撃つには、3ヶ月から1年ぐらいかかります。まあ狩猟銃にいたっては、1シーズン猟場で20、安全射撃で5〜60、残弾処理で20ぐらいと合計100しか撃たない銃も多いでしょう。
これでは10年使っても、摩滅による問題はよほどオイル切れをさせないかぎり、発生することがありません。いわゆるガタがくるのは、散弾銃の原始的な構造と、材質の柔らかさに起因する変型が原因ですから潤滑によって防ぐ事は出来ません。散弾銃は機関部は散弾特有の爆発性能により、撃発時に長時間の強度保持の必要がなく、また彫刻の必要性から硬化処理もあまりされていません、また機関部部品も撃針を除けば、摺り合わせ調整のしやすさから部分的な表面硬化処理される以外は、皆さんが考えているより、柔らかいものなのです。硬くて折れやすいより粘りが大事なのです。それならよけいに潤滑性能が大事なのではと思われるでしょうが、実際はその使用頻度からいえば前述の通りです。
▲2▲の浸透性能は▲1▲とも関係があります、実際固めのオイルやグリースは、部品を分解して組み立てる時に、それぞれの摺り合わせ部分に予め塗布して組み込むことで、十分な性能を発揮するもので、一般には自分で機関部を分解することの無い散弾銃では、メンテナンス時に塗布しても部品の隙間に十分に浸透することはありません。またグリースはワセリンをベースとした潤滑剤なので、自動車などと違いオイルシールの存在しない銃に使用すると、経年劣化による酸化、固化、乳化などの変性が進みます。ただしライフル銃の機関部、レバー式空気銃などのシリンダー部分などには、それぞれの指定のシリコングリースや、モリブデングリースなどを適正量使用することがあります。
現在では、合成油と鉱物油の混合か完全合成油の製品が多く出回っており、これらのオイルは非常に浸透性が高くなっています。▲3▲の清浄性能は、いわゆる汚れ成分を剥離させる機能で、クリーニング時に重要な機能です、これも最近のオイルは格段に向上した性能をもっています。最近のオイルでは銃身内部のクリーニングに使用する場合も一般的には十分の機能をもっているものも多く、普段はオイルで、ときどきは専用の洗浄剤(ボアソルベント)を使うのが一般的です。
▲4▲の水分除去機能と▲5▲の保護皮膜形成が結構重要な機能で、▲2▲の浸透性能が良いオイルでは金属表面に付着してすぐに、対象金属表面に浸透拡散し、表面の水分を上層に分離して、▲5▲の保護皮膜を形成し金属部分に対する、水分と酸素の接触を遮断する性能です。実際散弾銃ではこの機能が一番重要といえます。いわゆる彫刻や、装飾的な部品などにより、散弾銃では表面の腐食防止がなかなか大変なものがあります。こまめに手入れすればほとんど問題ありませんが、手の触れる部分など汗での腐食、雨の日の射撃による水濡れによる腐食、保管時の結露による(これがマンションでは大問題)腐食などを防ぐ必要があり、これをいかに御手軽に実行できるかが、オイルの性能にかかっています。
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