■第1章■お手入れに使用するオイルに関する疑問。
皆さんは普段のメンテナンス作業にどのようなオイルを使われていますか?私はブランドガンメーカーの物しか使わないという方もいれば、安ければ何でも良いという人もいるでしょう。この事では出入りされている銃砲店の仲間での流行りもありますし、人によっていろいろ言う事が違うので初心者が迷うところです。とくに若いかたですと、先輩から相談の余地もなく「ド素人がわかったようなことごちゃごちゃ聞くな、店の言うものを黙って使ってりゃいいんだよ!」などと怒られてしまったのでそれ以上聞けなかったので教えてくれないか?という相談を受けた仲間もいました。そこでまず我々が集めたオイルに関する疑問をいくつか掲げて、それらの正否を考え、さらに科学的にオイルに要求されるものはなにかを考えていきたいと思います。
疑問1:銃に使えるオイルは特別なものなの?
解答1:特別なものではありません、実際普通に我々が日常で機械などにつかっているオイル(CRC556など)は、用途欄にちゃんと猟銃等と記載されています。後述しますがオイルを使用する目的に合ったオイル性能が満たされているものであれば何でも使えます。逆にそうでないものも販売されているので良い物を選んで使う価値はあると思います。
疑問2:銃砲店で売っているオイル以外は使っちゃだめ?
解答2:これも疑問1と同じ答えで、そんなことはありません。が正解です。
疑問3:オイルは少ししか使っちゃいけない、と言うひとと、たっぷり使えと言う人がいて混乱してしまいますが、どちらが正解でしょうか?
解答3:どちらも正解、使う部位によってオイルの塗布方法や量に差があります。ただし散弾銃の場合、ある程度量は使用しないと充分な効果が得られないと思います。
疑問4:市販のスプレーオイルなどを使うと粘りがないので、潤滑性能が劣る。もっと粘りのあるミシン油のような物を使えと言われた?
解答4:これは間違い、なぜか昔はこう言って、柔らかいオイルを嫌う風潮がありました。これは全く逆です。オイルに目に見える粘着保持性能を求めるなら二硫化モリブデン系のガングリースを使うべきですが、散弾銃では必要ありません。また過度の粘性は逆に火薬滓や水分などと混ざった時にオイルの酸化が進むと、スラッジ固化の原因になります。現在のオイルは良いものであれば浸透性も良く、表面に皮膜を形成する能力も高いので見た目より充分な潤滑保護性能があります。
また粘性の高い安いオイルは、一般的に植物性や鉱物性の単成分のもので、酸化が早い傾向があります。これが厄介なオイルスラッジを生成する遠因なので、最近の柔らかい半合成油の方が揮発しても酸化による変性が少ない分有利です。
疑問5:CRC556などを使うと銃の色が剥げてくる?
解答5:これは半分間違い、皆さんが使っている銃は、銃身部分は脱脂したあと、黒化薬剤のなかに浸けて黒色加工されています。一部の猟銃と、オートマチックなどでは、つや消し処理やブラッククローム処理などがされていていますが、射撃用の上下2連銃ではすべて同じ黒化処理がされています。これは黒錆のけっこう強い皮膜を形成しますので、オイルによって色が変わる事はありません、ただし傷の部分などに自分や銃砲店が常温でガンブラックによる後染めで染めた部分は皮膜が薄いので、浸透洗浄性能の良いオイルを使うと、境界部分が輪じみのようになって目立ってくる場合があります。
疑問6:CRC556やWD-40を使うと銃身のハンダの鉛が溶けてはがれてしまう?
解答6:基本的には問題はないでしょう、市販のオイルに鉛を融解する性質はありません。ただしハンダはがれの原因のほとんどであるハンダ処理の時に十分に湯がまわらない状態(いわゆるテンプラ状態)になっていて接合面全体の接着がもともと不十分だった場合とか、経年変化でハンダが酸化して劣化した状態になっていた場合などでは、オイルによって剥がれを促進する場合があります。この件で気になる方は、このような高性能オイルは使用しないで下さい。
さて次章では、オイルに要求される科学的性能について考えてみます。