● B会長の徒然なるコラム
その2:聖母たちのララバイ
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現場勤務が主であるワタクシことサラリーマンBは、様々な書類や依頼書領収書の類を定期的に本社へ送り、決済を受けるのですが、本社にはいわゆる「お局様」がおりまして、書類や接待領収書の決済を受けるためにはお局さまへ根回しが欠かせません。それを怠ると、「そんな話、聞いていません。誰に話したの?」とか「そんな領収書預かった覚えは無いんだけど、誰に渡したの?」なんて厭味な職務質問を受け、汗を拭きふきひたすら事情を話すと、フンフンと頷きながら調書を取っていたお局様、ペンを置き「しょうがないわねーBさん。私が何とかしてあげるわよ」。
度のきつい老眼鏡を外し「Bさんって、私がいないと何にもできないのね」と、のたまわれ、優しく且つ、妖しく微笑まれるのです。

ご多分にもれず会社は、人切り名目のリストラを断行。ピカピカ、キャピキャピ、ピチピチ独身者や人妻ゴックン『女子社員』たちは「じゃあ〜ね、バイバ〜イ」。
未練も無くあっさりとお辞めになりまして、社内に残っている『女性社員』は独身化石辞典に掲載直前のお局様ばかりと相成った次第でございます。

彼女たちの目を瞠る書類作成術、稟議、決済までのテクニックは生半な技術で成し得るものではなく、一朝一夕で身に付くものでもありません。ワタクシメにとってお局様は貴重な存在であるのです。お局様あって今日のBがあるのです。(お局の前では、Bはオトコのプライドをすっかりかなぐり捨てています)テナ訳で、彼女たちへの社内接待は欠かせないのであります。欠かすと、どんな恐ろしい仕打ちを受けるか分かりません。

ある夜、お局接待を挙行いたしました。(日時はお局様ご指定且つ、場所もお局様御
用達の店なのです)ズラーリと居並ぶお局様に深々と頭を下げ、お愛想笑いを浮かべ「ご苦労様です。先ずはカンパ〜イ!」。
ジョッキを打ち鳴らし、明日からの益々の事務円滑化を願ったのでした。

お食事会も無事に済み、二次会はBの苦手なカラオケボックスに突入!お局様はマイクを奪い合い、流行りの歌をアップテンポで、或いは切々と歌い上げ、すっかりご自分の持ち歌に陶酔なさっております。
音痴のBにとって最近の歌はチンプンカンで、聞く歌全てが同じメロディー、同じテンポ、同じ歌詞に聞こえますから困ったものです。
歌なのか雄叫び(この場合は雌叫びですな)だか訳の解らない『雑音』を聴かされるBにとって地獄そのもの。

そんな思いを一人背負い込んで耳を塞いでおりましたらどこからともなく聞き覚えのある歌が流れてきたのです。歌うはF谷お嬢。太い二の腕でマイクを胸の谷間に掻い込み、今にもマイクの先端を飲み込む勢いです。なぜか分厚いメガネの奥にサザンクロスがキラリと輝き、瞳が潤んでいました。

♭アカシア〜の雨にうたれて〜 このま〜ま死んでしまいたい〜
ウン、この曲ならオイラでも知ってる!。「西田佐知子の歌った曲じゃーん」。」一緒に口ずさんじゃいました。パチ パチ パチ、まばらな拍手です。
歌い終わり、フーッと息をつくF谷お嬢に2リットルだか3リットルなみなみとビールが溢れるピッチャーを両手に抱えグラスに注ぎ、Bはそっと囁きました。
「ねー、知ってます?F谷さん。精液の匂いってアカシアの花の匂いですってね」「ですから、あの歌は男女の性愛を表現した激情の歌なんですよ」「ゴックン」。飲み干したグラスの縁に赤い紅の跡。

カラオケルームは時間が止まり、ミラーボールだけがくるくる回る静寂の中にありました。先ほどまでF谷お嬢の歌をシカトしてパラパラと歌本のページをめくっていたF川、F森お嬢が空のグラスをBの前に突き出しビールを催促します。受けたビールを一気に飲み干したF森お嬢「そーかなー、あれって栗の花の匂いだと思うけど‥」分厚い化粧に油が浮いています。
「そーねー、私は木瓜の花だと思うけど‥」いささか痴呆気味の、ボケたF川お嬢。「Bちゃんのナニって、アカシアなの?」F谷お嬢の凸レンズがまたまたキラリと光りました。
思わず股間を掴んだBは「そろそろお開きとしましょう。明日も早いし‥」。
長い夜がようやく終わりました。

以降、企画中。
アジア四か国で自己のルーツを見つめた長編「夕日が泣いている」。
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切なく物悲しく、然もズッコケた人生を今後も綴ります。